SAMURAI'S FREE TALK 侍放談 Vol.3
bay4k ベイフォーケー (ラッパー)
6月13日生まれ 神奈川県川崎市出身
HIP HOPユニット「SCARS」のメンバー。
07年6月には1stソロアルバム
「I am...」をリリース。
また、I-DeA、SAC、L-VOKAL、Mr.OMERI、YOUYORK等のレコーディングに参加。
「痛みのラップ」を提示する真摯な活動姿勢で老若男女を問わず人気を集めている。
1stアルバムは自分の「志」を表現した
――最近の自分の評判って気になりますか?
(インターネット上の自身に関する記事を見ながら)…別に何書いてあったって関係ないですよ。
だって、何言われてもやる事は変わらないし。
でも、ネットは顔が見えないからアレだけど、実際に会って面と向かって言われた事は受け入れますよ。
尊敬してるMr.OMERIっていう人のブログに「本人がリスク背負ってやってることに良い悪いをつけるっておかしいだろ」って書いてあって。
確かにその通りだと思う。まあ、(反響は)見てて面白いけどね。
こういう、「俺の仲間達よりも俺の事に詳しいんじゃねえの!?」っていうようなツッコミを見ると何なんだよって思いますね(笑)。
すげえな、よく見てるな、おいしいなって(笑)。
――それでは自己紹介を。
bay4k。川崎出身の、在日韓国人3世のラッパーです。
――川崎育ち?
そうです。
――名前の由来は?
自分の住んでる町に「浜」ってついてたんで…それで、ベイエリアだしそれがいいなって思って。
番地の数字を加えてbay4。で、名字の頭文字でkなんすよ。
――1stアルバム「I am...」は音がいいですね。tr.4の「Evil Ways」はD.O(雷家族)さんのラップも聴けます。
その曲のトラックを作ったのはBACH LOGIC(バックロジック)っていう大阪の天才です。
彼を起用したいって言ってるラッパーは多くて、HIP HOP業界のプロップス(支持)はとてもある。
――収録作品は、リアルな体験談をリリック(詞)に乗せていますよね。
今回のアルバムは、自分の思っている事をわかりやすく、こういう事を思っている人間だっていう自分の「志」を表現したんです。
もう悪い事からは卒業して音楽で更生していきたい、という事を。稀に、一人の人物になりきった目線で物語を書いたものもありますね。
――ラッパーとして活動歴はどのくらいになるんですか?
まだ駆け出しなんですよ。3年くらいかな。でも16歳頃からHIP HOPは好きで。
26歳の時かなあ…SEEDA(シーダ)って奴のレコーディングに付き合ったんです。
スタジオに遊びに行って。そしたら「すげえな」って思ったんですよ。
その頃、周囲にはまだ遊びで(ラップを)やってる奴もいたけど、これを形にしようぜってみんなで話し合って。
それで、2006年にSCARS(スカーズ)のアルバムを1枚出したんです。
――SCARSはどんな集団?
SCARSは…話せば長くなるけど、一匹狼の集まりだから普段は連絡なんかしないような。
――メンバーは何人いるんですか?
10人くらいはいるかもしんない。表に立ってるラッパーが5人かな。つまり、渋谷で洋服屋をやってるような者もいるわけですよ。
音楽やってるからSCARSって事じゃない。ラップをやるからその名前が出来たわけではなくて。
――へぇ〜。
以前からSCARSって名前を使ってた奴がいて、それがリーダーなんだけど。
これは「スカーフェイス」(アル・パチーノ主演の映画)から来てるんですよ。
ああいうのも、痛みじゃないですか。ブラック・ムービーも最終的には痛みで終わるじゃないですか。
「何でこんなに悲惨なんだろ」って。
――救いがないというか。
そう。ハッピーエンドじゃないです、ほとんど。でも、それに影響され、刺激を受けてシーンも成長してるし。
そういうところから俺の友達も名付けたんだと思いますけどね。
――じゃあ、ラッパーとしてのキャリアはこれからということですか。
だから、ライブも今はどうしたらいいか試してる段階です。さほどキャリアはない。叩き上げでもない。
だから、これから努力しないといけない、他の奴よりも。何倍も。
ベテランではないけど、年下の連中は先輩として見てくれてる。
だから彼等から「何だよこいつ、キャリアもねえくせに」って思われないように頑張ってるし、見せていくとこは見せてます。
ラップの起源は言葉遊びじゃない
ディスったり貧困を訴える「痛みの歌」なんだ
――bay4kさんは「B BOY PARK」(代々木公園で毎年開催される日本最大のHIP HOPイベント)に出演してますね。
非営利のイベントでアーティストも全員ノーギャラで、HIP HOPを盛り上げる為に集まるという。
それでいて日本中のラッパーが上がりたくてもなかなか上がれないクオリティの高いステージだそうで。
俺はそういう話も知らないくらい、今まで全然関わってなかったんです。
――2007年のその模様は地上波のいい時間帯で紹介されていましたよね。イベントの知名度も広がったのでは?
(テレビ番組の出演は)D.O君が先頭に立って運営側と話し合いしてくれたんですけど。
彼はみんなを引っぱってくれている存在で、
「こういう時代だからメディアにも出ていかなくちゃ駄目だ」と考えてるから…周囲もやっと納得してくれて、それに至ったんですけどね。
――僕の知識だと、日本のラッパーというと「m.c.A.T」とか
「RIP SLYM」とか「EAST END × YURI」といったアーティストが思い浮かぶんですけど。
一般人の、HIP HOPに漬かってない人の感覚ってこのようなものだと思うんですよ。J-POPと言われても不自然ではない。
俺は、それらが(自分と)同じ音楽とは思ってないです。
ビートもかっこいいし面白いエンタテインメントだと思うけど…ラップの起源は、言葉遊びじゃないんです。
日本ではディスする…ディスる(言い争う)って言い方をするけど、
NYのブロンクスでは昔、黒人達がディスる時とか貧困を訴える手段としてラップをしていた。
ガキが小さい頃からそういうことを自然にやってる。痛みを歌っているんですよ。
――「8Mile」(エミネム主演の映画)のシーンにもある、路上で黒人が集まってやるバトルですね。
日本人はわけわかんないノリで楽しんじゃったりするけれど、
向こうは「母ちゃんがアル中で、俺がヤクをさばかなきゃメシも食えない」なんていうリリックが日常的にあるし。
日本人の、さっき名前を挙げてもらった人達のラップっていうのはエンタテインメントだから。
でも、彼等は俺と同じ感覚で本気でやっていると思うんですよ。
そこまで頑張ってやっている事に対して非難はしないけど、何て言うのかな、とにかく違う。「自分にしか書けないもの」ではない。
――じゃあ、bay4kさんとは対極にあるエンタテインメントのラップはどう表現しますか。
80年代のオールドスクール(HIP HOPの黎明期)、黒人も角刈りだったような頃のパーティーラップをやってる気がする。
――パーティーラップ。
っていうのかどうかはわからないけどね。俺が90年代に聴き始めた頃なんていうのは、
イーストコーストのNYスタイルと、ウエストコーストのLAと…どっちかっていうとギャングはLAの方が有名なんすよ。
で、NYはもっと寒いイメージ。革ジャン着て襟立てて、みたいな。
今はサウスのHIP HOPが流行ってて、アトランタとかの。どんどん動いてる、メインストリームが。
だったらどうして、せめて今の流行を追っかけないのか?って思うね。
日本は恋愛の歌が多すぎる!!
――そもそも、ラップのレコーディングってどうやるんですか?手順とか。
リスナーは、ラップをどうやって作っているか細かいところまで知っているわけではないから、興味のある人もいると思うんですが。
かっこいい音を作るトラックメーカー(バックトラックを作るミュージシャン)のとこに行って「それ使わせて下さい」って頼んで、
Pro Tools(レコーディング用ソフトウェア)でデータが送られてきて、それ聴いてリリック書いて。
その後データの抜き差しがあったり展開が変わったりするけど、最初にある程度出来てるものが来ます。
――ある程度音が出来ていないとパフォーマンスが出来ない?
そんな事はないけど、テーマを濃く決める曲だとしたらトラックの雰囲気が見えてないとイメージしにくいですね。
自分のやり方だと。器用な奴は音がなくてもリリックだけ書いといて、それに合うトラックを見つけてきてそれにはめるとか。
俺はそうじゃないですね。音ありきですね。
――人によって違うわけですね。
そこは、作曲家の人もそれぞれやり方が違うのと同じですよ。
――bayさんのリリックは、当然オリジナルですね。
音楽業界の人にこういう事を言ったとしたら失礼かもしれないけど、
自分が書いてもない詞を、感情移入できるかっていったら自信がない。信じられない。
あと、日本は恋愛の歌が多すぎる。「そこまで平和ボケしてんのかよ!!」って…。
ラブソングだって、自分の家族を愛してるっていうんだったらいいけど、みんなピンク色に見えちゃって気持ち悪いよ。
――それが日本という国を表してるんでしょうか。
本当は、大変な事いっぱいあると思うんですよ。
――ラブソングでも、気に入っている曲はありますか?
俺がかっこいいと思うのは…愛、LOVEのことを何かに例えて歌っていたりとか。
「俺はマリファナのことがこんなに…」って、でも裏に“女”って意味があって。
別にそれ(薬物)を使用するかしないかっていう問題じゃなく、2つの意味を込めた演出が面白かったりしますよね。
だってさ、映画では人が人殺したり有り得ない犯罪起こすのが普通なのに、HIP HOPの世界はそういう風に見られないのかよって。
「演出の部分もあるぜ」ってね。ただそこは、経験は偽りじゃない。
犯罪を見ざるを得なかった環境だったりとかはあるわけですよ。もちろん、未だに馬鹿で悪い事やってる奴もたくさんいますよ。
実際そういう世界はあるし。
――なるほど。では、bay4kさんが今注目しているアーティストは?
SEEDA。こいつ天才っすよ!!うん。今までに皆さんが聴いてきたHIP HOPのイメージが覆るから、チェックしてみて下さい。
それからMr.OMERI。人間的にかっこいいです。ブログもすごい面白いですよ。
他にもいいラッパーはいっぱいいますよ。D.O、SCARSの連中、MACCHO、般若とか。
――周囲のラッパーと言えば…巷で話題の、「練マザファッカー」はラッパー仲間の集まりなんですか? bay4kさんの立ち位置は?
誤解してる人が多いんだけど、俺もD-ASK(ディーアスク)もSHIZOO(シズー)もそれぞれ自分達の活動がありますよ。
まあ、俺らが仲間という事で認識されているんだったら、それはいい事です。
D-ASKは、クラブに行ったらいるんすよ、あいつ。写真撮ったらいつのまにか俺と一緒に映っていたり。
どこに行ってもバックステージにあいつがいるんで。
彼は自分名義の作品は出してないけど、クラブでの知名度やコネクションは俺より全然上ですよ。
だから、遊び好きなんですよね。いや、もちろん変な意味で遊びって言ってるんじゃなくて。
他人がどうなっているとかは俺には関係ない
自分さえブレなければ
――日本のヒットチャートは知っている?
はい。テレビが好きなんで音楽番組は見ますよ。特にお笑いの要素が入っている番組がいいですね。
笑ったり、笑わせたりするのが大好きなんで。
――そこに出ているアーティストを見て思う事は?
いいなあ、って。テレビに出たいとかは別に思わないけど、売れる為だったら出る。
でも、他人がどうなっているとかは俺には関係ないですよ。自分さえブレなければ……と言えるように頑張ってます。
――bay4kさんは歌も上手いという噂を聞きましたが?
上手いですよ(笑)。カラオケで鈴木雅之とか歌いますね。だって、鈴木雅之ってマジで渋くないですか?
――(笑)。歌とラップを半々で曲に入れる人もいますけど。
アルバム2曲目の「Game Maker」なんかは「歌でしょ?」ってよく言われるんだけど、俺は歌とラップの境目がよくわからない。
自分の中では。音程が決まっているかいないかだけで、
手法としてはフロウ(歌い回し)が付いてライミング(韻を踏む)して…俺がやればそれがラップなんだよ、って感じですね。
――将来、鈴木雅之さんみたいな歌手活動をする可能性は?
考えの中に入ってないですね。でも歌は上手いです(笑)。さっき隣のスタジオで歌ってたタレントの子より上手いです(笑)。
――じゃあ、是非やって下さいよ。
ジジイになってからでもいいですか?(笑)でも、言葉に制約があるのは嫌だな。
…どうして、儲けられないとわかりつつ音楽をやってるかというと、それに対する情熱、想いだったりするわけじゃないですか。
バランス良くやるのはいいと思うけど、商業的に自分の考えを妥協するのはキツイかなあ。
そういうのは世間的にはよく見えるかもしれないけど、仲間の、味方の支持を失いますよ、絶対。
――将来、どういう状況を望みますか?
今、自分の周りにいる仲のいい連中が受け入れられたらすごくいいと思いますよね。
――アイドルに混じってヒットチャートにあなた達の曲が踊り出たりとか?
もちろん。俺が世話になってる妄走族っていうチームのDENっていう人がいるんですけど。
彼が「芸能プロダクションに所属するラッパーがいない。それはおかしいだろ」ってよく言ってて。
「それが当たり前の世の中になるべき」って。共感しますね。
――それに対して後ろ向きなラッパーもいる、と。
俺なんかはメディアにも出させてもらってるし、周囲もある程度の立場に立たせてもらってるから、前向きな人が多いですよ。
ただ、若い奴らはそうじゃないのが多い。というか、悪い奴も多いし。犯罪的な匂いがする奴がたくさんいるし。
声の入ってないトラックに自分の声乗っけたらそれがラップ
――ところで、僕はハード・ロックの兄ちゃんよりHIP HOPのラッパーの方が断然恐い!恐いし、入りにくい。
どういう事かというと、ギャングのカルチャーを想像するから。
…さっき言ったように、若いラッパーの中には犯罪的になっちゃってる奴もいるんだろうけど。
俺は、それもまた違うと思うし。彼等の「リアル」っていうとアメリカのHIP HOPを見てるから。
だから凝り固まって考えてる奴がいっぱいいると思いますよ。
「自分らはアンダーグラウンドで、一般人に受け入れられるわけねえ」って。
「犯罪的でもいいや、マリファナでも吸って」みたいなね。
だけど、それは間違ってる。そういう、HIP HOPへの“入りにくさ”を出してる奴がいる。
――実際のところ、そういった先入観があるのは否めませんね。
でも、ポップスにも悪い人はいるのに、表面に出やすいんですかね、HIP HOPの方が。
悪いイメージがもともとあるから…うん。ちょっとこういうオーバーサイズな服着てたら、それだけで職務質問受けたり(笑)。
絶対そういうイメージだから。
――はっはっは。
何か起きておまわりがやって来たら、彼等がとりあえず最初に捕まえるのが俺ですからね(笑)。
「おいおい待ってくれよ!何で俺が!?」(笑)やっぱり見た目で判断されるから。
――わかりやすいですね!
でもラッパーには面白い奴も優しい奴もいっぱいいるし。理由なく怒ってる奴はアホですよ。
それはHIP HOPの価値を下げてると思うんですよ。俺だっていつも怒ってないですよ。
――では、bay4kさんはどういう時に怒っている?
車の運転でよく怒ってますよ。「おっせえな、前の車」って(笑)、イライラして。
――bay4kさんを見てHIP HOPに興味を持って「俺もラップをやりたい!!」と思う少年がどこかにいたとして、
それに対してメッセージやアドバイスはありますか?
俺が最初に自分で試してたのは、好きな曲ができたら、それに関わっている人間をクレジットでチェックする。
で、そのプロデューサーが他のアーティストで作った曲を買ってみる。それで良かったら、次はアルバムを買ってみる。
そして今度はそこで参加しているラッパー達の曲を買ってみる。ひたすら聴いて、自分が何が好きなのかを知った方がいいですよ。
――「ラップをやりたいけど…行動を起こすにしても何から始めれば?クラブでライブをするにはどうしたら??」
という億劫な子がいたら?
声の入ってないトラック(音楽)に自分の声乗っけたら、それがラップじゃないんですかね。
今言った「億劫な子」ってのは趣味でやるんだったらいいけど、シーンでは絶対花開かないと思う。
ガツガツと、図々しいくらい自分で行って、「ちょっとその曲演らせて下さいよ」て言えるような奴じゃないと無理だと思う。
そういう億劫な奴は「自分」を知って、聴く側で応援してくれたらいいよ。
――厳しいなー。
だって、中途半端に声掛けてそいつがそれ一本になって、食えなくなっちゃったら俺のせいじゃないですか。
責任持てないもん。本当に大変だから、これでやってくのは。引っ込み思案な奴に「頑張れよ」とは言えないから。
ラッパーは、スタジオやステージでパフォーマンスして顔売ったりしないといけないからね。
――自身の数年後はどうなっていたいですか?
アルバムの中の「マニフェスト」っていう曲にも書いてるんだけど…自分のレーベルを立ち上げて、
音楽活動をしっかりできていれば幸せですかね。数年後は。
――これからもリアルな体験を歌っていきますか?
以前、ある人に「どうしてそんな過去の悪事ばかりラップにするんだ?」って言われたんだけど…俺はこれから、
これ(ラップ)で更生するから。だから悪い事から更生しようと思って、自分のこれまでにやってきた事を書いてるんです。
こういう事で警察沙汰になったとか。
「こういう事実もあるんですよ、皆さん。だけどこんな奴でも夢を見て頑張ってるんです」っていう感覚かな。
「I Believe」って曲でも歌ってるんですけど、自分は音楽で真面目にやっていきたいっていう自分の熱意を信じているから。
end.
インタビュー・文:井本ハチロウ